私の娘   樋口恭介


公園で娘と遊ぶ。娘と遊ぶのは久しぶりだ。
娘が生まれてから最近まで、子育てはずっと子育てアンドロイドに任せていた。
理想的な子供の姿が実装された子育てアンドロイドに育てられた私の娘。彼女は理想的な子供に育っていった。彼女は理想的に遊び、理想的に喜び、理想的な顔で笑った。彼女は理想的な子供としてのふるまいを完璧に身に着けていた。
やがて私は子育てアンドロイドと娘の見分けがつかなくなり始め、完全に見分けがつかなくなる前に、アンドロイドを廃棄した。廃棄のとき、アンドロイドは理想的な子供と同様の、理想的な表情で悲しみ、理想的な涙を堪えていた。
今は、私は娘と暮らしている。私は公園で娘と遊んでいる。アンドロイドはいなくとも、私の娘は理想的な顔で笑っている。
理想的な私の娘。彼女はアンドロイドと同じ顔をしている。






樋口恭介
SF作家。『構造素子』で第五回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞